琵琶湖伝132「暗報感激する」
琵琶湖伝132「暗報感激する」
高西暗報に山内記念と霧隠才蔵が会えたのは、まさに天運であった。
東海道を上って草津宿にゆく手前の街道に、妙な「ハゲ」た素浪人が立ち尽くしているという話を、旅の薬売りから聞いたのは、瀬田の東光寺そばの小さな茶店で遅めの昼食をとったときであった。
そこで山内記念と霧隠才蔵は、失敗覚悟で近くの庄屋で野良着を借り百姓に変装し、自分たちの衣服や刀などを大津の近江屋に運ぶようにその家の者たちに頼んで、街道にむかった。
そして眼にしたのが、なぜか身動きできず、中腰のままに驚いた顔で立っている、ハゲの小男で汚い着物を身につけた浪人であった。
「どうされました」
山内が、高西暗報の正面から声を掛ける。
「おぉ、心配してくれるか。どうも体がさっぱり言うことを利かぬ。情けをかけてくれぬか」
山内と才蔵は、この男が「問題の」男か見当がつかなかった。
悩んだときは中途半端に答えるしかない。
二人で声を合わせたかのように、
「はぁっ」
といった。
「おぉ、おぉ、助けてくれるか。ありがたい。大津に青葉屋という旅籠がある。そこにつれていってくれ。頼む」
山内が、問題の男か否かに関係することを問う。
「そこで、どなたかお待ちでございますか」
「そうなのだ、そこに宮内平蔵というバカがおってな。これがわしの仲間なのだ。そいつならわしのこの状態を解決してくれるはずなのだ」
(バカはお前だ)
と二人は思わずいいかけたが、そこは我慢し、
「お前様の名前を聞いてもよろしいでしょうか」
という。
「そうだな。名もいわずに親切をもらうのは、横着だな。わしは、高西暗報だ。よろしくね」
暗報の言葉に対し、山内は「伊作」、才蔵は「万作」とその場そのぎの名前で取り繕う。
すぐに才蔵が近所の家から大八車を譲り受けてくる。
そして、二人で、暗報を抱え上げ大八車に乗せた。
暗報は、涙ぐみながら、
「すまぬ、すまぬ」
と感謝の言葉を述べ、
「おぬしらも忙しいであろうに」
と気遣う。
「いやぁ、大津の米屋に帰るところでございます。ご心配なく」
笑いながら二人は、暗報に答える。
「わしは家族に恵まれぬ者でな、人の優しさが本当に身にしみるのよ」
暗報は、独り言のようにつぶやいている。
(今ここでこの男を殺すのは簡単だが、宮内平蔵のところまで連れていってもらわぬとな)
山内記念と霧隠才蔵が、眼と眼で言葉を交わす近江路の夕暮れであった。
以下133に続く


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